「ヒトラー最後の12日間」

昨夜マロクンを預けてあるA君からマロクンの様子がおかしいと電話があり、駆けつける。
 A君の話では、奥さんが散歩に連れている途中で突然道路に座り込んでそこから歩かなくなった、携帯で連絡をもらったA君が車で駆けつけると、車にはしずしずと乗ったので家に連れて帰ったが、そのまま寝転がって身体を起こそうともしない、とのことだった。

 昨日は台風の影響か、ことさら蒸し暑かったのも影響しているのだろうが・・・マロクンは先月あたりからだるそうに寝てばかりいて食事の量が半分ほどに減り、普段より水を多く飲むようになった。
 が、今回神戸へ出かける三日前ほどから食事の量は普段の量に戻っていた。 預かってくれていたA君の家でも最初はよく食べていたが、じょじょに食べなくなり、蒸し暑くなっせいだろうかと話していたという。 しかし今回の様子は一過性の夏バテだけとは到底思えない。 今年の春ごろにマロクンの右足の付け根あたりに腫瘍があるのに気が付いた。 医者で見てもらったが、このように外部に出てくる腫瘍は悪性のものが少ないし、犬の年令もかなりなので手術は勧めない、このまま様子を見たほうがよいのではないか、との診断だった。
 今にして思えばこの腫瘍は悪性のもの、つまり癌だったのかもしれない。 腫瘍はそっと触ると少し熱を持っている。 助手席に乗せて自宅に運び、一休みさせてから山の家へ連れて行く。
 首の鎖はつけず、土間にそのまま放しておいたが土間の上で寝そべったままである。
 朝方五時前だったが、弱々しい声で鳴くのを聞いて目が覚め、そばへ行くと、やっとという感じで立ち上がってヨロヨロ寄ってきたので身体を撫でてやると気持ち良さそうに首を長くしていた。
 たまたま大型で強い台風が九州に近付いているし、今回の綾部への出発を三日ばかり遅らせてこのまま様子を見ようと思っている。


 神戸で「ヒトラー最後の12日間」という映画を見た。
 戦後60年を経てようやくドイツでもヒトラーを正面に据えて描く映画が出てきたということだろうと思う。 彼のことは、その名前ややったことは誰でも知っているが、じつはよく知られていない人物でもあったのだとあらためて思った。 この作品はドイツの映画だが、一人の若い女性秘書の目に写ったヒトラーやその取り巻き連中の実像に迫ることで、あの戦争を起こした人間像たちに迫ろうとしていた。  
 彼や彼らは悪魔でも、狂人でもない生身の人間で、その生身の人間ヒトラーは自分がドイツという国家そのものであると信じていた。 戦争に勝利すればいろんな意味でそれまでの言動の辻褄は取れるだろうが、いったん敗北の憂き目を見た時すべてが反故になる。
 国民は国家を信じたのだから、この場に至って彼らがどのように死のうとそれは彼らの自業自得だ、とヒトラーは言い切る。 国家の論理と国民、国家とは何かを否が応でも考えさせられる。
  最初から極悪非道な人間とか、心酔し崇拝する英雄などというぶれた視点ではなく、あくまで秘書だった若い女性が見たままの、目に映ったままヒトラーという視点で統一され、ドイツ人らしい職人的で実証主義な作品の組み立てがじつによく作られていた。
 
 上映時間がちょうどお昼に時間に係る時間帯だったので、サンドイッチを造って持って行ったのだが、映画館の中でそれをパクつくような雰囲気は最後までなかった。
 個人的なことだが、オフの前の席に座っていたのは坊主頭の大きな男で、最初予想したとおり彼は映画が始まる最初から最後までその大きな頭を微動だにしなかった。 当然外見からではどのような考えを持っている人か分らないが、そのような人にこそあの映画の感想を聞いてみたいような気がした。

 オフの評価点 55点