石油本位制

 昨日の新聞には「家族5人帰国」と北朝鮮から拉致された人の子供達が日本
へ来た事を大きく報じていた。この事への人々の関心が高く大きく報じられる
事はよく分るが、オフには石油輸出国機構、通称オペックでサウジアラビア
石油相が最近の原油価格高騰に対して200万バレル以上引き上げる事を主張し
た事と、ロシアのプーチン首相が地球温暖化を防ぐ京都議定書を早期批准を目
指すと表明したことが今後の世界にとって大きな事件だと思える。

 まず、議定書問題だが、EUとの首脳会談で、ロシアのWTO(世界貿易機
間)への加盟交渉でEU側が歩み寄った結果、ロシア側も議定書の早期批准を
目指すことになったとされている。 つまりこの問題をロシアは自国がWTO
へ加入するための政治駆け引きの材料に使ったわけである。以前プーチン大統
領はこの問題で、地球が温暖化すれば寒い冬のロシアでオーバーを着なくても
済むので良いことだ、などと情けなことを言っていたことがあったが、問題の
本質が分っているならば、冗談にしろ言うべきことではない。

 以前にも書いたが、ロシアの国土の多くは「永久凍土」という、1年を通じ
て0℃以下の凍った土壌により形成されており、シベリアの永久凍土の面積は
日本の国土の25倍以上にも及ぶ。 その永久凍土の融解がすでに始まってい
る。 
地球温暖化によって永久凍土が溶け出したら、ドロドロの水溜りとなり、水溜
りはやがて湖になり、その水も永久凍土の融解によって変化すれば、流れ出し
てしまう。 更に永久凍土が溶けて森林が失われることにより、日光が直接地
面に当り、永久凍土の融解が加速する。そして、永久凍土の中には、凍土が形
成された約3万年前に、この地域で発生した大量のメタンガスが表層部に封じ
込められているのであるが、永久凍土が溶けることにより、メタンガスが地上
に吹き出ることになる。 メタンガスは現在、地球温暖化で第一の懸案とされ
ている二酸化炭素の20倍もの温室効果をもっているのである

 ともあれロシアが実際に批准に踏み切れば、京都議定書は息を吹き返して発
効が可能となり、遅れていた温暖化ガス排出削減への2008年からの国際的な取
り組みがようやく動きだすことになる。 なおロシアがこの条約を批准しなけ
れば、批准した先進国の排出量の合計が55パーセント以下となり条約は自動的
に無効となる。 なおロシアの削減率は0パーセントである。主要各国の削減
率、日本:−6% 米国:−7% EU:−8% カナダ:−6% ロシア:0% 
豪州:+8%  NZ:0% ノルウェー:+1% 量でも世界の三分の一以上の
排出をしているアメリカはブッシュ大統領が就任した際に「アメリカは国内の
利益を第一優先とするので、その障害になる京都議定書を受け入れることが出
来ない」として、すでにアメリカは京都議定書を批准しないことを表明してい
る。

 日本でも、環境大臣小池百合子が「かつては3K的な扱いだった環境ビジ
ネスだが、いま環境は“カッコいい”ものと考える人が多くなった。カッコい
いものは流行るとすると、環境ビジネスを発展させ環境革命を起こすには、そ
れこそ“環境”が整ってきたのではないか」などと問題の所在が全然分ってい
ないお目出度い発言をしている。
 以前にも書いたがこの問題こそ今、世界中が真っ先に取り組まねばならない
最重要問題なのに、である。

 また、サウジアラビアの石油相の発言がなぜ大事なのか・・・
 少し前に養老孟司の「バカの壁」を読んだが、その内容に関しては彼の著作
をこれまでに二冊ほど読んでいるので目新しい事はなかった。要するに彼は近
代社会とは環境を脳化(非自然化)していくことであり、唯一脳化されないもの
として自然としての身体があると言うのが彼の考えの大方の骨子である。
 しかし、その中に少しだけ触れてあった<現代はいわば石油本位制のような
ものである>という指摘があったが、その指摘で、まさにそうだ!とオフの目
から鱗が落としてくれた。
 近代を定義してナンダカンダという百出の議論はあるし、近代のテクノロ
ジーの発展が経済規模を拡大し世界を豊かにしてくれたと論があるが、石油
あっただけなのだ。
 まさに近代とは石油本位制の事なのだと思う。 であるからして石油の埋蔵
があるかぎり、その産出量にドルを大まかに連動させて増やして行っても、岩
井克人が心配するような世界の機軸通貨であるアメリカのドルが暴落して世界
ハイパーインフレにみまわれる心配はないと言い切れると思う。なぜなら日
々石油は掘り出され、それがあたかも作り出された価値として世界にばら撒か
れ、お金になっているのである。

 簡単に言えば石油とは地球に備蓄された過去の太陽エネルギーであり、その
財産があるかぎり、我々はそのタンス預金を食いつぶすまでは経済的な発展と
経済拡張は続き、アメリカの胴元であるドル資本主義がネズミ講のように破綻
しないだろうと思う。

 掘り出すのに多少のコストはかかるが、掘れは掘るだけでそのままお金に化
けるのが石油である。その埋蔵量が世界一多いのがサウジアラビアであり、世
界第二が今注目の国イラクである。(サウジアラビア25.0 % イラク10.9%
アラブ首長国連邦9.5% クウェート9.1% イラン8.7%)
 そして問題はその埋蔵量だけにあるのではなく、その掘削コストもサウジ
アラビアがダントツで低いといわれている。すなわち掘削コストの低さは、同
じ石油でも利益率が高い強みで世界の石油市場の動向を決定する大きな力に
なっている。それだけにサウジアラビア石油相の穏当な発言は大変重要であ
る。

 アメリカは現在の繁栄と経済の拡大は石油本位制と言うことは先刻承知のこ
とで、その石油の占有を目論んでいる。なにせ今世界で一番強い軍隊をもつ国
アメリカでありそのアメリカが石油を管理することが自国の繁栄を約束し、
ひいてはそれが世界の安定に結びつくと考えているだろう。そしてアメリカの
意向に沿わなければ、サウジアラビアをはじめいかなる石油産出国もイラク
政権と同様の目にあうこと言外に匂わせているのである。最近アメリカの現政
権の内部がイラクを攻撃する前さかのぼること一年前に、戦争になった時の原
油値段の交渉がサウジアラビアと秘密裏に行なわれていた事が判明している。
その事実は当時戦争に後向きだったパウエル国務長官などはツンボ桟敷に置い
てのことだったらしいが・・・

 現在、世界の確認可採埋蔵量は約9991億バーレル。
 いまのまま石油を掘り続けると、あと46年くらいで確認可採埋蔵量はゼロに
なるといわれている。21世紀に入り石油争奪戦はいよいよ始まっているのであ
る。
 そして石油がなくなれば、ウランエネルギーだとか水素エネルギーだとかの
価値は無に等しくなるのである。