『ミドル・セックス』

 以前は本屋へ行くのが楽しみで、なんとなく時間があれば本屋に入って雑誌や新刊本を見ていたし、その場の感じで気に入った本を買って帰っていた。
 しかし、図書館で本を借りるようになってからは、ほとんど本屋へは足が向かなくなってしまった。
 今は図書館で今月の新刊本の中から読みたい本を選ぶのが楽しみになった。 図書館を利用し始めて何よりもありがたいことは家に本が溜まらないことである。

 ようやく一冊の本を読了した。
 ジェフリー・ユージェニデス著 『ミドルセックス』 
 先月の終わりごろ図書館から借りてきた五冊の本の中の一冊。 つごう一ヶ月あまり借りていたことになる。 いつも利用している町の図書館の借り出し期間は二週間である。 当図書館は借りっぱなしにしていても、次の人が予約を入れない限り返還を催促してこない。 それは大変ありがたいが、一方
こちらも借りたい本が何冊かあるが、図書館へ行くたび備え付けのPCで検索してみるが、何時も貸し出し中となっている。 予約を入れれば良いのだろうが、受付の書士の人がなんとなく相性が悪そうで申し込んでない。

 『ミドルセックス』 これを読むのに二週間ぐらいかかった。 血筋と性をたどる物語である。
 ミドルセックスというのは地名であって、語り手であり主人公でもあるカリオペが少女時代を過ごしたデトロイト郊外の高級住宅街ののことである。
 だが、同時にこれは、5α還元酵素欠乏症という第五染色体の劣性突然変異によ
り、半陰陽ミドルセックス)として生まれた主人公の、性の自認をめぐる物語でもある。

 カリオペは遺伝的には男性だが、染色体の異常により、見かけは女児として生ま
れ、思春期に達して、男性の2次性徴が発達してきたところで、14歳の少年として生まれ直す。
 そして2001年のいま、41歳になり、米国国務省の職員としてベルリンに住む彼(男性になってからはカルと名乗っている)は、自分の一族に伝わってきた一つの遺伝子の軌跡を、当事者として書き残しておきたいと考えはじめる。

 その物語の前半では、1922年、ギリシア人の従兄弟同士だった祖父母が迫り来るトルコ軍の戦火を逃れて故郷を離れ、アメリカ中西部のデトロイトにたどりつくまでの経緯。
 さらに物語はその子供、つまり主人公の両親のアメリカ社会での成功話に移り、両性具有の子として生まれ、それが分らないまま女性として思春期を向かえた主人公の違和感と苦悩に移る。 そして後半では、14歳以降、男性として生き直すことを迫られたカル(カリオペからカルとなる)の自己自認つまりアィデンティテーを確立するための凄まじい葛藤が描かれる。

 ところでこの作品は作者の第二作目で、2003年度のピュリッツアー賞受賞作品である。第一作は『ヘビトンボの季節に自殺した5人姉妹』で(「ヴァージン・スーサイス」(ソフィア・コッポラ監督)というタイトルで映画にもなった)10年ぶりの第二作目で賞を取ったことになる。