今年見たビデオから三作

 今晴れていると思って、マロ君を散歩に連れ出しても途中から雨が降り出す。 あわてて戻って家に入るなり雨は上がり、薄日が差して晴れてくる。 この時期特有の北陸の空、めまぐるしく変る時雨の空。 夜に入って急激に寒くなる。
 天気が悪い日は一日一本のビデオを見ている。 激安中古ビデオ屋から買って来たビデオ。
 その激安中古ビデオ屋がまた一軒開店した。 そのような店はメインはアダルトビデオ販売なのだが、その一角にレンタル店から流れてきたビデオの中古品を売っている。1キロほどの間に二軒出来たので価格はさらに安くなって、嬉しいことに一本380円からたちまち250円に値下がりした。
 昨日「リトル・オデッサ」、今日「ナッシング・パーソナル」という作品を見た。 たまたまだが前者はニューヨークのブルックリンのロシア系マフィアの抗争、後者はアイルランドベルファストでのカソリックプロテスタントの間の暴力の応報の話である。 ともに無為な抗争、暴力の応報が一番罪のないものたちの命を奪っていく悲しい物語である。 とくに前者の「リトル・オデッサ」の殺し屋役のティム・ロスの抑えた演技もなかなか良かったが、その父親役をした男の日常生活の中での現れる小さなエピソードの中で、何というか生理的にゾッとするような不気味な悪のもつ怖さを表現していた。 さらにこの映画の監督は当時で若干25歳の新鋭監督だったというから驚きである。

 今年見たビデオの中にも数々の思い出深い作品があったが、その第一はデビッド・リンチ監督の「ロスト・ハイウエー」。主人公は妻を愛している。 しかし、妻に対して同時に、深い疑念がこころの深層に二つあった。愛する妻に対してだが・・・一つ目はビデオで象徴される、それに象徴されるものは彼女の過去である。 二つ目はの疑惑は、現在妻は自分を裏切って他の男と出来ているのではないかという疑惑である・・・その二つの疑惑と、自分が彼女をこころから愛しているんだという思いと、彼女もまた自分を深く愛してくれていると信じたいという思い。 一方では二つの疑惑がありながら、二人の間は完全でゆるぎない愛情で結ばれているんだという、そう思いたいストーリィと、矛盾なく物語を作らねばならないのだが・・・
 さらにベルナルド・ベルトリッチ監督の「シェルダリング・スカイ」 結婚して10年ほど過ぎた夫と妻は心のすれ違いを感じている。女に心を寄せる夫の友人は少しずつ女に接近してゆき、起きることが起きてしまう。 その後夫婦は再びお互いの愛を確認するが、その直後夫は病気で息絶える。 しかし、この映画の凄いところはじつはこの後の展開であった。男を失った女が何もない砂漠の美しい荒寥の中でアラブ人の隊商の中で男と身体を重ねる日々を過ごす。 そんな彼女を恋人が探し当て砂漠から連れ戻されるが…
 また、フランスのジャン=ジャック・ベネックス監督「ベティ・ブルー」も忘れられない作品だった。恋に落ち、愛する人の子供を身ごもることを夢見る激しい気性の女・ベティが、夢がひとつずつ砕けていった時、彼女の精神は破綻していく…いわば愛が激しすぎるがゆえに破滅していく女と、それを非狂気の側から見つめる男と・・・
 この外にもいろいろ思い出深い映画をビデオで見たが、キリがない。 とりあえず思いついたのがこの三作である。