『男の事情、女の事情』

 山の家のまわりの草刈をした。 これで山での今年の草刈は終了。草にまじってほうずきの実が赤く色づいている。

 アイルランドの現代作家ジョン・マクガハンの『男の事情、女の事情』を読む。
 短編集である。その中でも少年期の性の目覚めを書いた「神の御国へ」が個人的には特に好きだ・・・
 「くーっついた、くっついた、男と女がくっついた、ノーラとスティーヴィがくっついた」一緒に倒れた少女と少年に向かって子どもたちが一斉にはやしたてた−−で始まり・・・
 ≪彼の身体がすっともち上がり、彼女は道路側に倒れそうになって、夢中で彼の腕を掴んだので、スティーヴィが覆いかぶさるように倒れてきた。彼の額がノーラのあごに激しくぶつかったので、二人は一瞬気を失ったように路上に倒れた。彼の口は彼女の耳元のうなじに触れ、上半身はすっかり彼女の上に覆いかぶさり、両腕は開いた彼女の腿にはさまれていた。
 子どもたちは、けがをしてせっかくの遊びが台なしになる不安に押し黙ってしまった。 ようやく誰かが叫んだ。「くーっついた、くっついた」その叫びはみんなに広まった。最初はふぞろいだったが、やがて合唱になった。 「くーっついた、くっついた、男と女がくっついた」
 十三歳の金髪の少女ノーラは、みんなが何をはやし立てているのかすぐに気づき。 
 ぽかんとしている少年を両手のひらで押しやった。スティーヴィが転んだとき、片膝がノーラのワンピースの裾にひっかかって、日焼けした膝から、色あせた青い下着の裾まで、少女の若い真っ白な腿があらわになった≫・・・と続く。

 しかし、少し幼いスティーヴィは何故みんなに囃されたかわからない。
 後日、それを別の女の子テリーザにキャンディを渡して教えてもらおうとして反対に、人はどうして生まれるのか知っているの、と聞かれる。 スティーヴィは相変わらず解からなかったが、テリーヌはようやく話しはじめ、スティーヴィはことを知る。 
 ≪何年も前に父は母にあのことをやった。そこから自分は生まれたのだ。母の身体は今ではもう、うじ虫とタンポポの根と一緒になってオーダーの土の下だ。そして父は壊れた真鍮のベル飾りのついた鉄製のベッドで毎晩おなかをさすってくれた。
 「天にましますわれらの父よ。願わくば御名の尊まれんことを、御国の来たらんことを、御心の天に行われる如く地にも行われんことを」と、突然、口を衝いて出た。 スティーヴィは元気を奮い立たせて、一人ぽっちで村に帰ることにならないようにテリーザに追いつこうとした。≫
 
 この作品だけでなく青春期、青年期の身近で日常的な、ちょっとした事件などなど、いずれにしろアイルランドという国の特殊な事情、豊かで強大なイングランドとの微妙な関係、カソリック的権威が根を張っているような事情がいまいち飲み込めていないので、もうひとつ理解できないところであるが、雰囲気でなんとなく分るような、たとえば上の文章なら、父親が何故毎晩おなかをさすってくれるのか・・・分るような、分らないような、分ったような気がしてもそれはとんでもない誤解であるかもしれないが・・・
 アイルランドといえば広大な緑の牧草地、湖沼、なだらかな丘、崖が続く海岸線といった景観が目に浮かぶが・・・それ以外のことは今ひとつ知られていない・・・