「ロスト・ハイウェイ」

 大型の台風16号が九州鹿児島に上陸し、その後西よりに進路をとり山口に再上陸し、今夜半北陸を通過する模様だ。 フェーンで乾燥しているとはいえ、日中の最高気温が35度くらいに上がった。
 今夜は満月だが、残念ながら台風の雲でお月さんは拝めない。
 
 午前中リンチ監督の「ロスト・ハイウェイ」の二度目を見る。
 我々が過去に体験した事件を思い起こす時、意外とある部分は強烈に覚えていても、時間の流れに添って細部にわたり全てを覚えているいるわけではない。
 人の視点は自分が興味を持つことに関しては、ズームするように強く記憶するものだが、感心のないことに関しては見えていても、無意識的に切り捨てて見ていないものらしい。
 過去の記憶を呼び戻す時、我々は部分、部分の印象深い記憶を呼び覚まし、それらを時間の流れの沿って上手く辻褄が合うように結びつけてしまっている。 そしてそれは得てして自分の都合のいいように、無意識的にであろうと、意識的にであろうと再構成されてしまう場合が多い。
 それに格好の理由を提供してくれるのが、最近では心理学でいう過去のトラウマという物語のモチベートだったりする。 一部の宗教団体などでは、いまだに前世の因縁などを持ち出し、あなたは前世でこれこれの人で(その人はかならず誰でも知っている人物でなければならないが)こんな悪いことをして来たのでその報いが今現在来ていて・・・などともっともらいし物語を作り上げ信者を納得させたりしているらしい。
 さて、「ロストハイウェイ」の主人公だが、何らかの原因で、多分過去のある忌まわしいと思われる事件の記憶がなくなってしまっている。 つまり自分が何をしでかしたか、覚えていない、つまりある大事な記憶がバッサリと抜け落ちてしまっている。 しかし、その事件に至るまでのいくつかの記憶、というか個々の思い出は残っている。 彼はその部分部分の記憶をつないである物語を作ろうとする。 それは結局、かなり強引だし独断的で、自分だけに都合の良いストーリィで作られてしまうのだが、無理にそのように作り上げるので、細部ではいろいろ矛盾して、噛合わない事実が出てきて、それを無理に合理化しようとするのでとんでもないおかしな話になってしまう。 たとえば時間が逆戻りしたり、この世に存在しない怪しい者が出て来たり、たとえばそれは、すでに死んだ人だとか、宇宙人とか、悪魔とか、神様とか・・・そう、そう、これは我々が意外と身近に知っていることだった。 つまりわれわれが夜、寝ている間に見る夢の中には、そのようなことがよく起きているのである。
 この主人公は妻を愛している、。
 しかし、妻に対して同時に、深い疑念がこころの深層に二つあった。愛する妻に対してだが・・・
 一つ目はビデオで象徴される、それに象徴されるものは彼女の過去である。 二つ目はの疑惑は、現在妻は自分を裏切って他の男と出来ているのではないかという疑惑である・・・その二つの疑惑と、自分が彼女をこころから愛しているんだという事実と、彼女もまた自分を深く愛してくれていると信じたい現実。  つまり、一方では二つの疑惑がありながら、二人の間は完全でゆるぎない愛情で結ばれているんだという、そう思いたいストーリィと、矛盾なく物語を作らねばならないのだ・・・
 そこで彼が用意したのは現実的に考えればまさに奇想天外だが、それが夢の中とするならば、少しも不思議でもなんでもない・・・彼が二人いて、彼女も二人いるという物語だった。
 さてさて、どうなるか・・・この先はネタばればれ、になるのでこのあたりでおしまいにしておく