「スパイ・ゾルゲ」

 ビデオで篠田正浩監督の「スパイゾルゲ」を見る。
 たしか篠田監督はこの作品を撮る前に、これを最後の撮り納め作品にして映画監督業から身を引くと言っていたと思う。 が、その割りに劇場公開されてもさほど話題にならず、昔の「心中天の網島」の強烈な思い出があるので、見にいくかナァと思っているうちにいつの間にか上映が打ち切られていた。 今日ビデオでこの作品を見て、何これ!と叫ばないではおれないような作品だった。お粗末で評価出来ないという意味でだが・・・。
 取り上げているのは歴史的な事件だし、時代考証などもキチットやっていたし、日本映画としてはセットなどにはそれなりのお金もかけて作られていて、製作に時間も掛けたことはよく分ったが、出来上がった作品が映画としてぜんぜん面白くな〜いのです。 スパイ映画といえば、ハリウッドが撮るような裏切りとだましだまされる、非情な殺戮に満ちたハラハラドキドキだけを期待していたわけではないが・・・あまりにも盛り上がりのない内容でガックリ。 事件を綿密に調べるのは良いが、出て来たいろんな事実を時間をさかのぼって順番に展開し、盛り込んでいくことに囚われすぎたのだと思う。 まあたぶん脚本段階ですでに失敗作だったんだなぁと思う。
 彼がスパイになった過去のいきさつや、軍国主義の時代背景などなどを掘り起こして、どれだけそれを説明しても良い映画にはならない。そんな説明は一切分らなくても一人の人間がスパイであるというその事実から滲み出る苦悩や悲哀の人間物語として掘り下げなければ作品としての感動は生まれない。
 ただし、歴史上の有名な人物を役者がメイクして出てきていたのだが、たとえば西園寺公や若き昭和天皇東条英機などなどをあたかも菊人形でも見ているような楽しみはあったが・・・楽しみがそれだけの映画ではなぁ・・・