『夏の約束』 藤野千夜

 寒くなった。 昨夜寝るころは雨が降っていてさほど寒くはなかったが、今朝起きると冷え込んでいた。 冷たい雨は午前中いっぱいで上がったが、夕方マロ君と散歩に出たが、綱を持つ手が冷たくなる。 途中落葉樹の林の下を通るが、ブナの木が少し淡く黄金色にいろづき始めている。
 
 藤野千夜著の『夏の約束』を読む。 数年前芥川賞をとった作品である。
 昨今、癒し系とか、なごみ系とか呼ばれているいろんなものが街に溢れているが、そのように見栄えよくレッテルを貼られているものはどこかうそ臭かったり、底の浅いおもねりのようなものが見て取れるものだが、この作品はそのようなみえみえの主張もなく、肩を張らず静かに読める。 結局、何も起こらないが、なんとなく先が読みたくて読んでいる内にポツンと終わってしまう、しかしホンワリとした気分が尾を引くように残る作品である。
 結局人に悪意がある以上、悪意によって人が人をいじめるということはなくなることはない。
 人が悪意によるいじめを受けた場合、それを誰かに投げ返すいじめ返すことによって解消しているなら、もしそうなら悪意やいじめは減るどころか、ますます増大していくいっぽうであるはずである。
 ここに出てくる十人弱の人たちは、なんというか人にいじめられてもいじめ返さない人たちである。 
 この世にはそういう人達がいるのである。 悪意やいじめの底辺にいるこういう人たちが悪意やいじめを吸収しているから、悪意やいじめはこの世界中へどこまでも増大増殖し、蔓延していくことはない。 もちろん彼女や彼らも人知れず泣いているのだが・・・やるせない気持ちになるが、ポット小さな火が灯るように暖かい気持ちにもなれる。