『ハリガネムシ』 吉村萬壱

 週間天気予報を見ると、明日から一週間お天気が続きそうである。
 移動性の高気圧が次から次と上空を通過していくのだろう。 これからの時期北陸では晴れた日が少なくなるので、貴重な秋の晴天続きであるが、あいにく明日からまたしばらく神戸のほうへ出かける予定である。
 昨日は庭の木々を選定した。 選定というより切り倒した方が多かったというべきか。
 我が家の果樹園の林檎、梨、サクランボは相互に受粉させるために植えたもう一本がすでに枯れたり倒れたりしたので根元から切り倒した。 ついでに枯れかけの梅ノ木も二本切り倒す。なんだかやっている内に切り倒すのが面白くなってしまいやたら切り倒したくなる。 果樹は自宅で食するだけの果樹を、と思ってある時期ホームセンターで苗木を買って来て植えたが、良い実を育てるには思った以上に手間や世話がかかるのである。 結局残ったのが何の手間もかからない柿と栗、銀杏、スモモだけになった。 それに桃、ももは良い実を育てるためには摘果や袋架けが必要だが、花が美しいので残すことにした。

 吉村萬壱著 『ハリガネムシ』を読む。 昨年の春の芥川賞受賞作である。
 その後の昨年秋の受賞者が最年少のダブル受賞で騒がれた、金谷ひとみの『蛇にピアス』と綿谷リサの『蹴りたい背中』である。 最近は図書館に人気がある売れ筋の本を数冊置くから、本が売れないとの作家や出版社からの批判があって、我が町の図書館も一冊しか置かないので、両作品は予約が連なっているらしく、今だ読めないでいる。
 いやぁ〜面白かった。 作中に出てくるサチコというソープランドで働く背の低い女の子が良かった。
 後半に移るとサチコはあまり口を利かなくなるので、存在感が少し薄れるが、ハチャメチャ度が大きな存在であり、さりとて憎めないところのある不思議なキャラクターの女である。
 「忘れたかにゃ、サチコだよ」 「ビールでもいくか? ん? ん? ん?」 「立つずら、脱がしてあげるだぁよ」 「あきゃああああ〜っ 慎一くぅぅ〜ん、来ちゃったぁ」 「なんかトチ狂っちゃったずら」 などと全国区の語尾で喋る女である。 商売がソープランドなら相手も全国区、それもあるっきゃなぁ。
 たしかこんな女いたよなぁ・・・・と、そうそう、あれは「誰も知らない」に出ていた少し脱力した感じの年令不肖なミイとかいう女の子、あの感じに少し似ているかぁ・・・と思い出す。
 彼女も全部種違いで戸籍なしの子どもを四人生んで、さらに他の男との結婚願望に生きている。 こちらのサチコは中学で施設に入れられて、そこの職員とヤリまくって二人の年子を産み、その子を施設に入れたまま飛び出して風俗で働いている。そして性に関したは如何なることも最終的に受け入れる。 この他に作中にはもう一人の大人の女が出てくる、柴田女子と呼ばれる高校で英語を教える女教師で、すべての物事をソツなくビジネスライクに片付ける、いわば大人の女である。 男といえば公立の高校で倫理社会を教え、その辺をウロウロして風俗へ出かけたり、ノゾキをしたりしているモテナイ系の教師である。 ウロウロしているというのは、上昇志向も一応少しはありながら、所詮自分は下品でエロく、下へ落ちて行くしかない部類だなぁと知っていて、とにかく都会の隅でウロウロしていることだけが存在感の男である。 まさに<矜持>などという言葉にはつゆほど縁のない存在であるが、しかし、彼に如実な<現代>が感じれる存在でもある。 この二人の道行ではなく<落ち行き>とでもいうべきからみが空恐ろしいくらいリアルに訴えてくる。