風呂を焚く

 庭仕事で汗をかくので、昨夜は久しぶりに風呂を焚いた。
 山の家の風呂はこだわりの五右衛門風呂で薪を燃やしてお湯を沸かすのだが、疲れている時などのために灯油ボイラーもついていて、コックを捻るとお湯が出るようになっている。 
 普段はほとんど灯油ボイラーでお湯を張っているのだが、昨夜は薪を焚いてお湯を沸かした。  
 おおよそ一年ほどカマドは使ってなかったので、最初火付きが悪く煙が逆流して、煙突が詰まっているかななどと思ったが、その内に薪はゴオゴオと音を立てて燃え始めた。 外へ出てみると煙突からは白い煙がモウモウと上がっている。 それを見ているとなぜか嬉しくなってくる。 昨夜は月夜だったが、オリオン座がでんと正面に見え、もう夜空はすっかり冬の星座になっている。 そういえば今年は熊騒動で騒がれていて、夜はめったに外へ出なかったなぁ、と今更ながら気が付く。 湯加減は、と風呂場に入り驚いた。 風呂場の中は真っ白で何も見えない。煙が風呂場中に充満しているのだ。 出入り口のドアと無双窓を開けるが、煙はなかなか引いていかない。
 山の家を作る時、物好きにも風呂は五右衛門風呂がいいなぁと思い、あちらこちら問い合わせたが今時五右衛門風呂など取りあっかっているお店はなかった。 以前東京へ行ったとき渋谷の東急ハンズの前に展示のため置いてあったのを見かけたことがあったので、ハンズにも電話するが、今は取り扱っていないとの返事。 当時始めたばかりだったインターネットで検索すると、一件だけ製造販売しているところが広島県ありさっそく連絡して注文した。 形はチューリップ型で同じ鋳物製の台座に乗っかる仕組みになっていた。  その台座には扉附きの焚き口が附いていて、どちらかといえば野外で使用する作りになっていた。 とりあえず風呂場の予定の場所の隅っこに置いて、その設置した五右衛門風呂に合わせて風呂場を造って行った。 焚き口を外に出すようにレンガを1メートルほど積んで下の壁をまず作った。 上の壁は貫きの上にシージングボードをあて、防水アスファルトシートを張り、金ラスも張り、その上にモルタルを下塗りし、その上に砂+漆喰を混ぜて中塗り、上塗りは漆喰のみ、外側はモルタル抜きで中塗り、上塗りだったと思う。 さらに床にあたる場所にコンクリートを流し込みその上にテラコッタタイルを敷いて洗い場を作った。 それで風呂釜は内部、焚き口は外(建物内部だが)になったが風呂場の中では釜は台座の上にただ乗っかっているだけの状態だった。
 家全体が完成して、友達も来て風呂を焚いた日はもう大変だった。
 カマドで薪を焚くが、台座とお釜は共に鋳物製でピッチリ密着している訳ではななく、微妙に隙間がある、その隙間から下から焚く煙がモウモウと上がってきて風呂場に充満して、とうてい目も開けておれない状態だった。
 その時来ていた設計事務所をやっている同級生の友人が、いやいやお湯を沸かすのに風呂を焚くと風呂場の中もその熱で暖まり、これはなかなか良い風呂だ、と言っていたが、煙りモウモウでけむたければ風呂にもおちおち入っておれないだよね。 後日、台座とお釜との間に、耐熱コンクリート塗り、さらにその上に白い漆喰を上塗りした。 その時その設計士の忠告で水抜きドレンの所だけを少しだけ隙間を空けておいた。 今回火付きが悪かったので、どうやらそこからの煙が風呂場に充満したみたいだ。 だいたいこの友人の設計士は県庁などへ行くと先生、先生とおだて上げられているが、我が家を設計した時、駐車場はベタのコンクリートでは面白みがないと言って、駐車場の真ん中と脇にわざわざU字講の溝を造って、そこへ小石を敷き詰めて趣ある駐車場にしたが、出来たばかりの一年目の頃はそれはそれなりに趣があったのだが、その内に小石を敷き詰めた溝に泥が詰まりはじめ、そこを小石を上げて掃除するのが大変で、今は掃除もしないで放りぱなしになっているが、そこに毎年雑草が生えてきて弱っている。
 さて風呂だが、一人暮らしとは情けないもので、薪が燃えてお湯が熱くなって来て、自慢の無双窓を開けておもむろに、おおぃ、熱いから火を引いてくれ、と言っても誰も来てくれない。 自分で、はあぃただいま、と答えて、仕方なしにフリチン姿でカマドの焚き口まで行って、火を引いて空気口の小窓を閉じて戻って来なければならない。
 それでも薪で焚いたお風呂は身体が温まる。 風呂上りに外へ出てみると星空をバックに薄くたぶん青くなった煙が一筋細々と上がっていた。