『彼女の部屋』 藤野千夜

 今日から12月だが、天気予報によると今日から三日間連続でお日さまのマークが出ている。
 一日目の今日は、山の家の雪囲いをした。
 山の家は下屋の出が大きいので、かならずしも雪囲いは必要ないのだが、万一大雪になり大屋根の雪下ろしをする羽目になった時のために、毎年この時期雪囲いをしている。 半透明のビニール製の波板を使うのだが、それでも部屋から外の景色が見れなくなり結構鬱陶しいものである。
 
 藤野千夜著の『彼女の部屋』を読む。
 少し前に読んだ『夏の約束』が良かった。 図書館に同じ作者の本ががあったので借りてきた。  
 これは6篇の短編集である。 どの作品も都会暮らしの女一人の日常が描かれていて、われわれの日常がそうであるように、さして事件らしい事件があるわけでもない。 淡々とした日々の中、ほんの少し期待していたことがうまくいかなかったり、少しはた迷惑なことや、無遠慮な人がいて嫌なこと、などなどが起こったり、起こらなかったりするわけだが、それでも無理しないで、健気にひとりの女がこつこつ生きている。 読んでいてそんな情景が目に見えてきてなんとなく嬉しくなる。
 
 ≫「わー、すごくたくさんあるんですね」
   大河内がつやつやの頬を盛上げて言った。大学を出てやっと一年経ったところだとはいえ、この仕事の人にしてはやけに健康的な印象だ。セミロングの髪もつやつやのストレートで、ただしこれは矯正パーマ(施術三万円)の賜物とのことだった。
 「うん、十七通」
 ゆりえは言ってから苦笑した。すっかりストーカーの手紙の管理人になってしまったみたいな気がする。 「好きなの? こういうの」
 「ああ、はい。ちょっと」
 大河内が照れもせずうなづいた。まともそうなルックスをしているのに、案外ただの不思議ちゃんなのだろうか。
 「もしかして、大好物?」
 「ええ、じつはわりと」
 大河内は冗談ぽく笑った。奥二重の目がきらっと光った気がする。 「開けてみていいですか?」
 「どうぞ」
 ゆりえが促すと、大河内はちょこっと口をすぼめるようにして、透明な袋のジッパーをぴりりと開けた。≪

 まあ、こんな感じの会話と情景が淡々と描かれていく。
 同じような40代の女性でこの世代の作家は、唯川恵とか、山本文緒がいるが、彼女達は直木賞系の作家であるが、藤野は芥川賞系である。 その違いは微妙なものがあるが、やはりそこにどこか一線が引けるような違いがあるような気もする。 ともに軽々と書いているようだが現実の直視しが上で手探りでそれを文章にしているか、どうかの違いというのだろうか・・・そのあたりになるともう微妙なものがあってうまく指摘できないが・・・上の文章で言うと<奥二重の目がきらっと光った気がする>というような観察と表現あたりがそうだろうか・・・