マロクンの腫瘍

 一昨日に引き続き、昨年末切り倒した庭の木々を薪にする作業を続けた。
 お昼過ぎでようやくぜんぶ切り終り、その後細い枝を両腕に抱えて何回も運んで一箇所に集めた。
 それらを全部積み上げると、象が座っているほどの量の山になった。 この山を明日風がなければ火を点けて燃やしてしまおうと思っている。 本来なら細い枝はホダといって焚き付けに使うと火付きがよく燃えるものだが、焚き付け用の細い木っ端は今のところ沢山あるのだ。 それにその枝を積み上げた場所は、毎年葛の蔓が生えてきてうんざりしている場所である。 その場所の上で火を燃やして、ついでに葛の根も焼いてしまおうという姑息な算段もしているのであるが・・・

 少し前からだが、マロクンの右前足の付け根あたりに五十円玉大の腫瘍のようなものが出来ている。 今月の初め神戸へ行く前に、職業別電話帳で犬猫病院を捜して連れて行った。
 そこは普通の農家の庭の一角に白く小さな簡易建物があり、そこが診療所のようなものであった。
 そこの獣医は、そのデキモノを診て、
 「これはいわゆる腫瘍ですが、このように外部に現れて来るものは、一般的に言って悪性のものが少ないのですよね」と言う。
 「まあ、とくに痛がるとか、痒がるとかない場合、ほら触っても嫌がったり、痛がったりしないでしょう、痒がって地面などに擦り付ける場合はそこからばい菌が入ってよくないのですがねぇ・・・何年生まれでしょうかねぇ」と聴くので
 「たしか平成四年ごろだったようですが・・・」と答えると、壁の犬と人間の換算表を見て
 「人間で言えばもう70歳を超えていますねぇ。 この年令ですと手術のため麻酔するのもかなり負担になりますし・・・なんとなく見た目に気持ち悪いでしょうから・・・まあ、切って切除して欲しいと言われれば切って取らないこともないのですが・・・歩くのに痛がることもないのでしょう?」
 「そんなことはまったくないですから、このままにしておきます」と答えると
 「それが良い、それが良い」とうれしそうに言う。
 何と言うか商売気のない獣医である。
 料金は?と聞くと、何もしていないのだから、いらないですよ、と答えるのでそのまま連れて帰ってきた。
 その獣医の鼻の頭が赤かった。
 他人の鼻の先ばかりをジロジロ見るのは失礼だ、と思うが、話を聞いていてもついつい目がそちらへ行ってしまう。 俗に、鼻の先が赤い人は飲ンベイであると言うが、この人の鼻の赤さからいえば相当な飲ンベイなのだろうなぁ、などと思いながら目がそちらに吸い寄せられる。こんなに鼻のトンボが赤い人ははじめて見た。
 帰り道、それにしてもおかしな人は身近にもいるものだなぁ、としみじみ思った。