『サイドウェイ』

 昨夜神戸から帰った。
 今月も例によって十日間ほど神戸で過ごした。
 帰りついてみると庭の緑が一段と濃くなって、曇り空の今日の朝などは少し薄暗いくらいである。 エゴの木の花はとっくに散ってしまい、ヤマボウシやウツギの白い花も少し色あせ始めているが、夏椿が咲き始めていた。
 畑の夏野菜もナスビはまだ花は付いていないが茎が太くなり、葉も色濃くなってきている。 一方この間脇芽を取らなかったトマトはその脇芽が大きく伸びて、どちらかといえばすでにワヤワヤ状態であるが、キュウリと共に黄色い花を付けている。
 朝のうち友人のA君宅に預けてあるマロ君を引き取りに行った。  マロ君はちょうど抜け毛の最中に預けて出掛けたが、もう八割がた夏毛に生え変わってスッキリしたスリムな身体になっていた。 今年の入梅は遅れているようだ。 来週の予報でも雨のマークはなく、最高気温が25℃を少し超える夏日の予報が並んでいる。

 レックス・ビケット著の『サイドウェイ』を読んだ。
 中年のやや常軌を外したような男二人マイルスとジャックの二人が主人公で、マイルスは売れない作家で一年前の離婚から立ち直れずにいる。 一方TV役者でのジャックは来週リッチで美人な相手と結婚する予定になっている。 ジャックは抗ウツ剤を手放せない暗い友人マイルスの身を案じて、陽光きらめくカリフォルニアのワインカントリーを気ままに旅行し、思いきり羽目を外して女を口説き独身時代の最後のアバンチュールを楽しもうという訳である。 
 この作品を映画化したものが先月神戸で上映されていたが、上映が朝の時間だけだったので足を運ばず見逃している。 今回小説を読んでみて、映画化しやすい作品のようだし見ておけば良かったかなぁとも思ったが、まあその内にビデオが貸し出されるようになるだろう。
 

 「まあいい。教えてくれ、どんな女ならおめがねにかなうんだ?」
 僕はしばし熟考した。「僕の人生の現実のありのままを受け入れてくれる女。僕が選んだ道を、うるさく責めたりけなしたりしない女。ときに僕がドツボにはまっているように見えたとしても、黙って見守ってくれる女」・・・
 
 などなどのような男二人の軽い会話がはさまれている。
 男同士の別にどうということのないよくある会話だが、われらの日常でよくある、ことさら大袈裟ではないごくごく当たり前の男サイドの真実が顔をのぞかせている。 二人の行状が、とくに能天気で享楽的なジャックのそれがこれが最後とばかりハチャメチャな様相を見せれば見せるほど、翌日のマイルスの内向きの、上のようなやや恥かしいような真面目な受け答えが逆に印象深く尾を引く。 男の持つ二面性、いろんな女と次々にベッドインすることだけを求める面、また一方で一人の女を深く愛し醜く嫉妬するくらい沈溺する面。 極端な表の顔と裏の顔というのか・・・が上手く組み合わされてこの作品の中に閉じ込められている。