サイゴン陥落の映像

 今日は生協の日である。 卵、めかぶ、豆腐、梨などと共に珈琲の豆が来た。
 ここ二、三日珈琲豆が残り少なくなり、一日一杯しか飲んでいなかった。 珈琲は最低でも毎食後、つまり日に三杯は飲みたい。 豆は<森の珈琲>というブランドを飲んでいるが、値段はそんなに高くはなく100グラム当たり300円を切っている。  多分豆を焙煎した後の管理がキチットしていないのだろう、美味しい時とそうでない時がある。 美味しくない時は少々腹が立つが、これが止められないのは、美味しい時の味が苦味、酸味、甘味の微妙なバランスがまことに上手くとれた味を醸して、高級な豆ブルーマウンテンに決して引けを取らないからである。

 昨日の日記に<当時ベトナム戦争に激しく抗議、反対していたオフだったが、アメリカが敗北してサイゴンを脱出する映像を見た時は、少しも嬉しさは沸いて来ないで、むしろ全身の力が抜けていくような虚しさに襲われたのを覚えている>と書いたが、少々書き足らないことがあったので補足しておく。
 南ベトナム政府があったサイゴンが陥落したのは1975年で、その年の四月にオフの長男が生まれているが、ちょうど長男誕生から一ヶ月も経っていない4月30日にサイゴン北ベトナム軍がサイゴンを占領して事実上南ベトナム政府は瓦解している。
 その時の映像がテレビで流れ、オフはそれを食い入るように見ていた。
 北ベトナム軍の戦車がサイゴン市内にストリートに姿を現し、戦車は大統領官邸に突入し、建物に北ベトナムの旗が掲げられ、事実上南ベトナム政府はその時点で崩壊した。
 その少し前に大統領官邸かアメリカ大使館だったか忘れたが、いずれかの建物の屋上から海上に待機していた航空母艦へ向けて最後のヘリコプターが飛び立つ映像があった。 人々を満載して飛び立とうとしている最後のヘリコプターに何とかしがみついてでも乗ろうとしているベトナム人アメリカ人が蹴り落としているシーンだった。 記憶はハッキリしていないが、蹴り落としていたのはヘリのドア付近に座っていたサングラスを掛けた身体の大きなアメリカ軍人だったような気がする。 一方けり落とされている人は一人だったか数人だったかハッキリしないが、とにかく身体の小さなアジア人であった。 おそらく最後まで残っていた南ベトナム政府の関係者だったのではないかと思うが・・・そのあまりにもリアルで非情なその光景を見ていて、オフをして全身の力が抜けていく虚しさを感じたのだった。 そのアメリカ人は、<最後の最後まで醜く卑しいイエローモンキィめ!死んでしまえ! 醜く卑しいお前達のためにわれわれは多大な財源と多数の命の犠牲を払ったにも関わらず、お前達が不甲斐無いためにわれわれもこうして撤退せざるを得なくなった!お前達は全員、北ベトナム兵になぶり殺されて当然だ!>と叫んでいるように聞こえた。 目の前で南ベトナムが瓦解していく事実よりも、あのベトナム人を蹴り落としている一人の臥体の大きなアメリカ軍人の姿にアメリカそのものの姿を見てしまったような空恐ろしさと虚しさを感じた訳である。
 これは後で知ったのだが、北ベトナム軍はアメリカ政府の要請により、サイゴンに在留するアメリカ人が完全に撤退を終えるまでサイゴン市内へ突入しないという、密約がなされたいたということだった。