『カギ』


 昨夜のお昼過ぎから降り始めた雨は、夜中にいったん上がっていたようだが、夜半過ぎにまた降りだし、日が昇る頃から小降りになりやがて止んだ。
 休養日にして山の家で一日を過ごした。 マロクンと久しぶりにゆっくり散歩をした。 昨日午後からの雨のため散歩を休んだせいか、マロクンは途中記録的な回数、なんと六回も!ウンコをした。

 清水博子著の『カギ』を読んだ。
 なんともとらえどころのない小説である。
 この人の書いたものを読むのはたしか『ぐずべり』に続いて二冊目である。
 前作でも下の妹との関係が書かれていたが、今回も同じで妹と姉が交互に日記を書いていくことで話は進んでいく。 交互に書くといっても交換日記を書いているわけではない。 妹がウエブ上に公開した日記を書き、それを読みながら姉が非公開の日記を書いている構図である。 しかし途中から妹は姉も日記を書いていることを知り、姑息な手段で姉のPCに細工をして姉の日記を読み始める。 姉はそのことを知りながらそれを許している、というか妹が自分に日記を読んでいることを知っているわ、とわざざ自分の日記上に書いたりしている。 このようないびつな構図である。 それではその姉と妹の関係はどうなっているのか、お互いに強く意識しあいながら仲が悪い訳でもなく、さりとて良い訳でもない。 その外登場するのは小説を書いているA子という姉の友達(彼女はある意味で姉の分身であろう)妹の夫の木村くん。  さらにあと付け加えるなら姉の夫はすでに死亡している。 妹夫婦は出来ちゃった結婚で娘はいるが、両親に預けっぱなしになっている。 その子を生む時一悶着があり、当時まだ生きていた姉の夫が養子に貰い受けることを申し出て妹は娘を生み、結婚も同意した・・・そのようなおかしな関係や過去のいきさつがある。
 最近頻繁に言われる負け組、勝ち組というカテゴリーに分ける言葉があるが。 ここに出てくる姉妹を安易に両者に分けるなら、姉は常に勝ち組で妹は連戦連敗の負け組である。 そうでありながら妹は常にアッパー志向であり、それが何というか見当違いな単純さで貫かれているだけになお一層の連戦連敗を呼んでいるのであるが、当然ながらそのことは妹には分っていない。 それならば、姉はマトモかと言えば、これがどっちもどっちなのである。
 作品の中では日付けが進み時間が経過していくわけだが、二人の日常はほとんど何も変らない、最初も最後も同じようなものである。 いじめのような、意地悪のような、悪意のような、疑惑のような、不安のような、ものが膨らんだり、萎んだりして、ダラダラと時間だけが経過していくだけである。
 人によっては読んでいてイライラして来て、何なの?これは!と腹が立つだけの小説なのかもしれない。
 まあ人間の価値というものを、あらゆる場面において世間的に成功したか否かという比較基準で眺め、それから演繹的に人間をそれぞれの階層化して捉える思考に囚われ逃れようなく浸かっている現代人的な人生がここでは打ちっぱなしのコンクリート壁のように突き放したように描かれている小説とでも言えばよいのだろうか・・・
 
 最近は外仕事を適度にこなし、夜は疲れてよく眠れる健康的な生活を送っていた。
 ところが昨夜、夜中に目が覚めてしまい眠れなくなった。 仕方なく起き出したのが3時前だった。
 ストーブに火を点けて、燃える炎を眺めながら酒を飲んだ。 目が覚めたのは、いろんな想念が錯綜し、あげくにいやな夢を見たからだ。
 真っ赤なホットパンツ、すっぴんの足に白いブーツ、豹柄のハーフコートを羽織った女が出てきて、コンクリートの階段に坐り、手のひらを上向けこちらに向かって軽く手招きしていた。 ストリートガールを気取った清水博子だったのだろう。 やれやれ・・・