『いつかパラソルの下で』

 
 マロクンとの散歩の途中、オニヤンマが山道に沿って後から前へと抜けていった。
 セミはまだ鳴いていないが、もうすぐ夜明けにヒグラシの鳴き声のシャワーが始まる頃だ。 しかし同じ頃にありがたくないアブも飛び始める。 今年は空梅雨が続く、というよりまだ入梅すらしていない。 
 週間天気を見ても雨の日が向こう一週間には見当たらない。 それどころか明日の最高気温が31度、明後日は33度と真夏日の予報になっている! まあ、最低気温が20度ぐらいなのはせめてもの救いだが・・・ 山の堤の出口の栓が開けられ、細い水路を日を受けてキラキラ光りながら水が流れていく涼やかな音がしていた。 子供の頃夏休みの宿題に雲の観察というのをやったことがある。 おおかたは後で図鑑を見ながら適当に書いたような気がするが、それでもその年は時々は夏空を見あげていた。 あの少年の頃見上げた夏の空や雲のことを思い出すと胸が切なくなり、少しだけきゅんと痛みついため息をついてしまう。

 
 森絵都著 『いつかパラソルの下で』を読んだ。
 作者は児童文学の分野から転じてきた作家である。 本の帯にあるキャッチコピーは<大人のためのハート・ウオーミング・ストーリィ>とある。 
 病的なまでに潔癖で、傍迷惑なほど厳格だった父親が交通事故で突然亡くなり、法事の前に父親のそれまで知られなかった一面が今は大人になっている三人の子供たちの前に少しずつ明らかになってくる。
 父に関する謎は深まるばかりで、父が秘密にしていた<暗い血>のトラウマを探りに、それぞれに現在いろんな問題を抱えている三人が、それまで行ったことのない父の故郷佐渡へと旅することになる。 これはいつてみれば現代の<青い鳥>探しの物語といってよいだろう。
 夏の日、プールサイドのパラソルの下で軽く読むにはもってこいの一冊であろうか・・・