『山田太郎と申します』

 昨夜は断続的に激しく雨が降り雷も鳴った。 入梅が例年に比べ遅れ、少雨の六月かと思っていたら一日で一ヶ月分ほど降った。 家の横の小川もちょろちょろと水が流れ始めた。 
 お昼前に雨は上がり北の高気圧の圏内に入ったので涼しい、今のうちだと草刈を始めた。
 お昼前に山の家周辺、午後からは自宅へ行き昨日に続いて全部刈り終わる。 七月のはじめまた神戸へ行くが、これで安心して行けるというものだ。
 

 玄月著の『山田太郎と申します』を読んだ。
 七篇の短編に分かれているが、それぞれに山田太郎が登場するが、彼を相手する女がそれぞれ違う。 相手するといってもセックスする訳ではない、と言うよりぜんぜん<しない>。
  
 「自分は、なに食べる?」などと、コテコテの大阪弁を使う39歳の坊主頭、タンクトップ姿の男が山田太郎。 また彼は動物ドキュメンタリ番組を撮るアッテンポローの番組が好きなのである。
 そしてからの相手の女達は、少しづつどこかヘンな女たちである。 ていうかいらいらしている、怒っている、あきらめている、過呼吸のように男ののめりこんでいる・・・それに対して山田太郎は 「もう、ええっちゅうねん」と言うのであるが・・・
 相手の微妙なギスギス感を感じ取ると、笑いをとるためには少々のことぐらい平気なキャラの男。
 
 ≫あたしは山田の自転車のハンドルを支える右腕に自分の両腕を絡ませてもたれかかった。 あたしにはまだ照れみたいなものが合って、打ち消すためのポーズでもあるし、山田へのサービスでもあった。これをされて喜ばない男とまだ出合ったことがない。 
 ガシッと受け止められるはずのあたしの体重の十分の一ほどの重みは、そのまま自転車の反対側へ、加速度をつけて投げ出された。 つまり、山田とあたしは自転車もろとも倒れたというわけ。 ジーンズでよかった。
 「何で倒れるのよお、もう」
 すぐ起きあがろうとするあたしを山田は止めた。
 「まて、あまりにもかっこ悪すぎる。ほとぼりが冷めるまで、このまましばらく死んだふりしとこ」
 そういって山田は目を閉じた。
 「ばっかじゃないの」
 あたしはそういいながらも笑ってしまい、立ち上がって山田に手を差し延べた。山田は、やれやれといい、仕方なさそうに立った。
 「「やれやれ」はあたしのセリフだよ、まったくもう」
 かすかな笑い声に振り返ると、バス待ちの列の何人かが声を殺して笑っている。 
 「不本意ながら、ウケたみたいやな」
 山田はバス待ちの列に向けて軽く手を振って自転車を押し始めた。 そのしぐさに今度は遠慮のない笑い声がかかった」≪

 本を読み終わると、後姿の男の写真がある。 坊主頭で、黄色いタンクトップを着た男の後姿。 その下に玄月の略歴が書いてある。 1965年大阪生まれうんぬん・・・と。