ユベール・マンガレリ著『しずかに流れるみどりの川』

 雨が降ったと毎日書いているような気がする。 昨夜も夜半過ぎ、激しく雨が降った。
 今日も夜に入って雨が降った。 日本はアジアモンスーンの帯の東の端にあることがあらためて感じさせられる。 このモンスーンが身の回りのあらゆる森羅万象を生み育て、日本人の感覚や思想を作り出しているのだと・・・思わないわけにはいかない。
 
 
 ユベール・マンガレリ著の『しずかに流れるみどりの川』を読んだ。
 作者はフランスの新鋭で、といってもスタートが遅くもう50歳近くだ。 それまでは主として児童文学作家として活躍してきていたらしい、本作品が本格的な作家デビュー作ということである。
 とにかく、驚いた。
 全編を通してまさに表題通りしずかに流れる川のように静謐な作品だが、後に残るものがとてつもなく大きい。 おそらくこの先の人生の場面場面でこの作品のことを、何度となく思い出すことがあるだろうと思われる、そんな作品である。 
 べつに事件らしい事件が起きるわけではない。 子供が草のトンネルの中を歩きながら思い続けること・・・前に住んでいた家の近くの川のことや、その川に架かる橋のことや、お金を儲けてその支流の持ち主になることなどなど。 それに息子とその父親との家の中での日常的な話が淡々と繰り返され、それらだけが話の流れをつくっている。
 この小説を読んでまず思い出したのは、昨年見たロシアの映画「父 帰る」という作品だった。
 この映画も父と子の問題を扱っていて印象深かったが、今回の小説は扱っている問題も父と男の子とそして子の成長だが、どちらかといえば子供の繊細な内面のほうへ踏み込んで書かれている。 父親の側からではなく、子供の側から見た父親の存在とその父親が支配する世界を書いている、その結果、子供にとって父親なるものとは何か、という問題をより深く掘り起こす結果に繫がっていっている。 昔からこころが洗われる珠玉の作品という言葉があるが、間違いなくこのような作品のことをいうのだろうと思う。 
 ついこの前に読んだドイツの新人ユーディツト・ヘルマン著の『夏の家 その後』もそうだったが、オフの今年の外国文学のベストに入るのは間違いないだろう。