『狐寝入夢虜』

 予報では雨となっていて午後に一時黒い雲が広がったが、結局雨は一滴も落ちてこなかった。
 一週間以上雨が降っていない。 畑はマルチングをかけてあるからあえて水遣りは必要ないと思うが・・・まあ明日には少し降るだろう。


 十文字美香著の『狐寝入夢虜』を読んだ。 <きつねねいりゆめのとりこ>と読むらしい。
 なんだか大仰なタイトルの上、魔夜峰央マンガ、紫の着物を着て狐と一文字書いた旗を持つ女の挿画が表紙を飾っている。 著者は三十一歳でこの本が処女作の新人作家である。
  本のカバーには<現代社会に女性として存在することの新しい難しさ。一人ぼっちーーこの世界のたった一つの哀しみを。深く潔い語りの力で描く、魅力的な才能の登場!>
 何をやっても不器用で金がなく腹を空かしている女が、アパートの近くの妖しい神社の中で狐にたぶらかされて迷い道に入り、年下の男の子と出会った、ガール・ミーツ・ボーイ、ただそれだけの話である。
 
 ほんの少し気になる箇所があった。
 <私はただ先陣を切れば良い。気が向いた様に働き、気が向いた様に怠け、遊び、寝て、人の意見は聞かず、全ての不安を蹴散らそう・・・>

 何故この程度の文に何が気になったかというと、先日電車の中でたまたまアエラという雑誌を読んだが、そこに<バブル入社組の遠吠え>という特集記事があり、40歳以下の会社員を5歳ひとまとめの世代別に分けて論じてあった。 つまり現在36歳から40歳を、バブル期入社世代。 31歳から35歳を、団塊ジュニア世代。 26歳から30歳を氷河期世代。 記事は、現在中堅として活躍するはずのバブル期入社組なのだが、水増し入社されたものの「第二の団塊」扱いされてリセットするにもラストチャンスの年頃なんだが・・・危機感も薄く・・・というものだったが、まあ、その記事はそれはそれとして・・・。
 その分類からいえば、この作者は31歳、団塊ジュニアの最後尾世代である。
 考えてみれば人口比で行けば団塊ジュニア世代というのは前後の世代より断然多いはずであるが、会社の大学新卒者採用数で見ていけばバブル期入社組みよりあきらかに少ない。その後の氷河期世代ともあまり変らない。 ということは必然的に団塊ジュニア世代というのは、会社に採用されなかったいわゆるフリーター人口が断然多い世代ということなのだろう。
 作者もまたその世代の一員であるということは、首都圏の大学を出たものの思うような就職先も見つからず会社に採用されることなくそのまま首都圏に住みついて、フリーターをしながらそこらに住んでいる世代であるということが見えてくる。
 となれば、<私はただ先陣を切れば良い。気が向いた様に働き、気が向いた様に怠け、遊び、寝て、人の意見は聞かず、全ての不安を蹴散らそう・・・>というのも、アエラに習ってタイトルを付けると<不採用団塊ジュニア組の遠吠え>となり、まあなんとか納得、納得。
 でも問題は、じつはその先だなんだがなぁ・・・収録されたもう一編の作品「水酔日記」でも、気が向いたように怠け・・・を不安を蹴散らそうとお喜楽調で書いているが、あきらかに二番煎じ。